早稲田大学
ジャーナリズム研究所

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  W ドキュメンタリーカフェ(Wasedocu4) レポート 004


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2015年11月15日(日) 開催
   Wasedocu4 

 ドキュメンタリー映画『ヤクザと憲法』先行試写会 レポート

第4回のワセダドキュメンタリーカフェ「ワセドキュ」が2015年11月15日、早稲田大学小野記念講堂で開かれた。上映作品は東海テレビ制作の「ヤクザと憲法」。取り締まりが苛烈になり銀行口座もまともにつくれない中、「わしら、人権ないんとちゃう?」と訴えるヤクザの肉声に200人の観客が触れた。早稲田大学ジャーナリズム研究所主催、ジャパンドックス協力。

  

監督は東海テレビで、愛知県警捜査4課(暴力団の取り締まり)の担当記者だった土方宏史さん。刑事から「ヤクザは落ちぶれていて悲惨」と聞かされ「言いかたはよくないかもしれないが、怖い物ヒエラルキーの頂点にいると思っていた人たちが底辺にいるのがおもしろい」と思ったことが、ヤクザを撮る動機になった。

土方さんとカメラマンの中根芳樹さんらが、大阪の指定暴力団「二代目東組二代目清勇会」の事務所に出入りしヤクザの日常を撮った。「任侠道」という看板が掲げられていたり、マナーで粗相があった下っ端が何度も叱られたり。土方さんが組事務所で暮らすことを「恐ろしい、コントみたいな罰ゲーム」と表現するような一般社会にはない世界があった。

だが一方で、本棚には『世界の猫カタログ』があったり、堅気の頃に暮らしていた家族の写真を眺めてセンチメンタルになったり。「暴力団」という呼び名からは程遠い人間らしい面を垣間見た。会長の馴染みの店のおかみさんは怖がるどころか「この人に昔からほれてんねん〜」とあっけらかんと言い放つ。

上映後は監督の土方さんとプロデューサーの阿武野勝彦さんに加え、作家の宮崎学さん、弁護士の安田好弘さんが参加してトークセッションがあった。

ヤクザの組長を父に持ち、自身の半生を『突破者』(幻冬舎アウトロー文庫)で綴った宮崎さん。昔は近所の不良を一喝するような「共同体でのヤクザ的存在」がいたことを挙げ「今は共同体が清潔さを求めるあまり無味乾燥になっている。ヤクザを壊滅させる社会は健全ではない」と語った。呼び名については「『暴力団』は差別的、『任侠』は褒めすぎ。僕は『ヤクザ』と表現する」と説明した。

オウム真理教事件や光市母子殺害事件の弁護人として知られる安田さんは、作品中で山口組の元顧問弁護士が微罪で懲役判決を受け弁護士資格を剥奪されたことに触れた。「絶対悪と言われるヤクザの弁護をすると資格を奪われた。身につまされて暗澹たる思い」。1992年に施行された暴対法以来、暴力団を取り締まるために憲法で保障された基本的人権が蔑ろにされていると警戒した。

社会を息苦しくしている原因の一つとして、監督の土方さんとプロデューサーの阿武野さんはメディアを挙げた。

土方さんは自身が警察の記者クラブに身を置いた経験から「メディアは警察におんぶにだっこで一心同体になっている」。阿武野さんは、ヤクザへのバッシングについて「実態のわからないモンスターを叩いているのではないか。暴力団を肯定することはできないが、微罪で次々に懲らしめるのは違うのでは。今回の作品は、人間と社会をヤクザからの視点で描いた」と語った。

ただ今回の作品は、土方さんが「清勇会の日常で見せてくれているところを見せてくれただけ」というように、ヤクザ社会の全貌を明らかにしたわけではない。土方さんは当初、6代目山口組組長の出身母体で地元名古屋の弘道会を取材しようとしたが叶わなかったという。

  

「ヤクザと憲法」は新年1月2日から中野区の「ポレポレ東中野」で公開される。
次回Wasedocu5は2016年春頃の予定。


チラシ